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京都地方裁判所 昭和38年(ワ)218号 判決 1963年5月11日

判   決

福岡市西中洲本町八六一

原告

藤崎親義

京都市伏見区桃山水野左近東町一四の一

被告

大宮庫吉

東京都目黒区柿ノ木坂一八五

被告

田中豊

主文

原告の本件訴を却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告提出の訴状につぎの記載がある。

請求の趣旨

被告等を宝酒造株式会社の代表取締役から除名する。

訴訟費用は被告等の負担とする。

との判決を求める。

請求の原因

一、被告等は何れも宝酒造株式会社の代表取締役に就任中である。

二、訴外長崎市寄合町五八番地大和観光株式会社がキヤバレー建築を為すに付その資金に充用するため宝酒造株式会社に金借の申入れを為したるにより被告等は右会社の代表取締役として右訴外会社に対し同社所有の福岡市渡辺通三丁目十号の一、二、三宅地合計三百十坪七合五勺を坪あたり金四万二千二十円と評価して昭和三十六年六月十三日右土地に付抵当権設定を為して金六千万円を貸付けその支払方法を毎月五十万円宛と致したるも右大和観光株式会社は今日に至るまでその支払を為さないものである。

而して右土地の時価は代金千六百万に過ぎないものであるが被告等は不当にも六千万円を貸与し而も回収不能であり会社並株主等に不測の損失を蒙らしめたるものであるから原告は株主の決議により被告等を代表取締役より除名する様請求したるも被告等は之を為さないので原告は株主の一員として止むなく本訴に及びたる次第である。

理由

原告の本件訴は商法第二五七条第三項所定の取締役解任の訴であると解するほかはない。

ところで、取締役解任の訴の被告を誰とすべきかについては、(1)会社を被告とすべしとする説(会社被告説)、(2)取締役を被告とすべしとする説(取締役被告説)、(3)会社と取締役の双方を共同被告とすべしとする説(共同被告説)の三説が対立している。

当裁判所は、(3)の共同被告説を正当と解する。けだし、商法第二五七条第三項の文言および実際的妥当性より考えて、取締役解任の訴は少数株主が会社と取締役間に存する委任関係の解消を求める形成の訴と解するを相当とするからである。

会社被告説は、取締役解任の訴の被告適格を取締役選任決議無効取消の訴の被告適格と同一に考える見解であるが、取締役解任の訴は、取締役解任否定の決議無効・取消の訴でない(決議無効・取消の訴によつては取締役解任の目的を達成することはできない)。会社被告説の論者も判決の効力が取締役に及ぶことを認めるが(商法第二七〇条取締役解任の訴を本案として取締役職務執行停止・職務代行者選任の仮処分を認めている)、会社被告説ではその根拠を説明できない。

取締役被告説は、取締役解任の訴は少数株主が会社の有する取締役解任権を行使する訴であると解するが、商法第二五七条第三項の文言および実際的妥当性より考えて、右のように解するのは相当でない。

したがつて、本件訴は、宝酒造株式会社の取締役である大宮庫吉および田中豊のみを被告として提起したものであるから、不適法として却下を免れない。

よつて、民事訴訟法第八九条第二〇二条を適用し主文のとおり判決する。

京都地方裁判所第二民事部

裁判長裁判官 小 西   勝

裁判官 乾   達 彦

裁判官 堀 口 武 彦

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